

娘たちが小さかった頃から、誕生日には毎年ケーキを作っています。
最初に作ったのは、次女が4歳の頃。フルーツタルトに、ペティナイフでアルファベットの形に切ったクッキーを並べたものでした。
高校生の頃からお菓子作りは好きで、焼き菓子やシンプルなケーキなどはよく作っていました。ただ、デコレーションをして、誰か一人のためのケーキを作るようになったのは、この頃からでした。
娘がとても喜んだこともあり、その後、誕生日とクリスマスにはケーキを作るのが恒例になりました。
リクエストは、味や種類まで
誕生日が近づくと、娘たちに聞くのは、今年はどんなケーキがいいかということだけ。チョコレート、いちご、シャルロット。希望は味や種類までで、その先はこちらで考えてサプライズにするのが、いつの間にかわが家の決まりになっていました。
制作中も非公開。「今ケーキやってるから、こっち来ないでねー」と言えば、娘たちも心得たもので、出来上がるまではキッチンに近づきません。
完成したケーキは食事が終わるまで冷蔵庫の奥へ。小さい頃は、Happy Birthdayを歌ってケーキを運ぶ間も、ぎゅっと目を閉じていました。ケーキが置かれて目を開けると、「わぁー」と目を輝かせてしばらく眺める。中学生の頃までは続いていた、わが家の誕生日の習慣です。

次女が中学生になって間もない頃、Instagramを見ながら「ねぇ見て!〇〇ちゃんが買ってきたケーキでお祝いしてるよ!」と、ずいぶん驚いた顔で報告してきたことがあります。
あとで聞くと、誕生日ケーキはどの家でもお母さんが作るものだと思っていたそうです。 こちらとしては、むしろその反応に驚きました。
完成図を決めずに作る
毎年違うケーキを作ってきましたが、完成した姿を最初から細かく決めていることはありません。デザイン画も描きません。
次女が動物好きだから犬を作ろう。きれいなものが好きな長女にはバラを。シャルロットには苺と花を。最初に考えるのは、そのくらいの大まかなイメージです。そこから材料や作り方を考え、手を動かしながら形を決めていきます。
マジパンで初めてバラを作ったのも、娘の誕生日ケーキでした。

あるとき、マジパンが好きだった次女から来たのは、「マジパンだけでできたケーキ」という無理難題。そこでマジパンで小さなバースデーケーキを作り、くまとうさぎのお茶会のテーブルにのせました。テーブルと椅子はクッキーで作り、お茶会ごと苺のゼリーケーキの上にのせています。

チョコレートケーキをリクエストされたときは、花かんむりのように飾ろうと考えて作り始めました。バラや小花をひとつずつマジパンで作り、作っているうちに種類が増えて、最後には花かんむりに欠かせないシロツメクサまで。

こうした飾りは、娘たちが寝たあとに作ることもよくありました。途中で何かを加えたり、一度作ったものをやめて別のものにしたり。出来上がりがどうなるのかは、作っている本人にも最後までわかりません。
長女からフレジエをリクエストされた年には、苺とマジパンのバラを合わせ、大人っぽく仕上げました。

ケーキを作ることが仕事になってから
その後、妹とカフェEat & Smileを始め、オーダーケーキを受注すると、たくさんのお客さまのためにケーキを作ることになりました。日々いくつものケーキを作るようになると、家で一台のケーキを作ることさえ大変な時期もありました。
それでも、以前から続いていたこの特別な一台を、手放したくはありませんでした。
店で作るケーキも、一台ずつその人のために考えたものです。娘たちの誕生日も同じで、店で作ったものをなぞるのではなく、その年、その娘のための一台を考えました。
次女には、お話の中に出てくるようなケーキを考えることがよくありました。メリーゴーランドは、レモンケーキを土台に、屋根の部分にはココアジェノワーズを重ね、生クリームでナッペ。木馬はプラチョコで作り、アイシングクッキーの月をのせました。

制作時間が限られているため、店の商品としては難しいですが、家では時間をかけて作ることができました。
せっかく家で作るならと、店では箱の都合もあり商品化していない二段のケーキを作ったこともあります。

長女からは、材料についてのリクエストが来ることもあります。キャロットケーキは、小麦、砂糖、乳製品を使わずに。苺のショートケーキは、卵も使わないヴィーガン仕様で、見た目はシックに。

どちらもレシピを持っていたわけではなかったので、いろいろなレシピを調べ、自分なりに配合と作り方を決めました。キャロットケーキには、カシューナッツ、ココナッツミルク、メープルで作ったカシュークリームを合わせています。


キャロットケーキはその後、わが家の定番になった。
二十歳の誕生日には、絵本の20ページを開いたケーキを作ろうと考えていました。ところが、リクエストは「フルーツがたっぷりのったケーキ」。絵本のケーキにフルーツたっぷりは難しい。そこで大きな苺のタルトを焼き、その上に絵本をのせることにしました。
名前入りの栞を挟み、二十歳のページを開いています。その先にも、たくさんのページが続いていくイメージです。絵本はリアルに作るよりも可愛らしく仕上げるつもりでしたが、作っているうちに、ページのめくれや紙の重なりまでつけてしまいました。

妖精の家は、以前から頭の中にあったモチーフのひとつ。店ではオーダーされる機会がなかったので、次女の誕生日に作りました。

店を始める前からあったこと
店を始めるときに考えたコンセプトには、「食卓を囲む大切な人たちの笑顔を思い浮かべて……」という一節があります。この言葉を考えたときに頭にあったのは、誕生日ケーキを見る娘たちの顔でした。
どんなものが好きかを考え、まだ形のない一台を作る。それを家族の囲む食卓へ。店でたくさんのお客さまのケーキを作るようになるより前から、家では毎年やっていたことでした。
今も、誕生日には
今では娘たちも大人になり、家族全員が誕生日当日に揃うとは限らなくなりました。それでも誕生日が近づけば、今度はどんなケーキにしようかと考えます。「ケーキ作ってくれるの?」と聞かれ、作るつもりだと答えると、「やったぁ」と返ってくる。
次の誕生日もまた、そこから始まります。
