ブラッスリーからビオマルシェまで。パリの食のグラデーションを歩く。



食を歩けば、その街が見えてくる

パリを歩いていると、食べる場所の選択肢の豊かさに驚かされます。

昔ながらのブラッスリーやビストロでは、長く受け継がれてきた定番料理が今も迷いなくメニューに並んでいます。

ガリエラ宮の後に立ち寄ったフレンチビストロ・ブラッスリー「Le Galliera」は、平日でも地元の人たちで賑わっていた。
活気に満ちた店内で、ブラッスリーの気取らない定番「ステーキ・フリット」をいただいた。奥の料理「温かいシェーブルと季節のフルーツのサラダ」は、フィロペーストリーで包んだシェーブルがこんがり焼き上げられていた。

一方で、ヴィーガンカフェやグルテンフリーのベーカリーにも自然と人が集まり、週末のビオマルシェは新鮮な食材を求める人々で賑わっていました。

けれど印象に残ったのは、その多様さ以上に、どの店にも共通して流れる「食への真剣さ」でした。

目次

パリの日常に息づく食文化

パリでは芸術が暮らしのすぐ隣にあるように、食文化もまた日常の中に息づいています。

歴史ある料理や技術は、今も人々に選ばれ、食べられ続けることで、ごく当たり前に明日へと手渡されています。

オペラ座近くのLe Grand Café Capucines(グラン・カフェ・カプシーヌ)。伝統的で濃厚なオニオングラタンスープと、とろけるようなブッラータチーズのサラダ。
この店で人気の牛肉のステーキタルタルは、テーブルのそばでたたいて提供してくれる。野菜のキッシュは大きく、食べようと思っていたクレームブリュレを断念。

ブラッスリーで食事をしていると、隣のテーブルには一人で食事を楽しむ女性の姿がありました。お酒を飲むわけでもなく、ごく自然に料理を注文し、ゆっくりと食事を終えると店を後にします。

特別な時間ではなく、日常の一食として伝統的な料理を楽しむ。その何気ない光景が、とても印象に残りました。

「一軒のおいしい店」として根付くヴィーガンとグルテンフリー

一方で、街にはヴィーガンやグルテンフリーのベーカリー、中東料理など、多様な食文化も自然に溶け込んでいます。それぞれが特別な存在ではなく、街の人が日常的に通う「いつもの店」として親しまれていました。

ハイセンスな流行発信地であるとともに、多様性の街でもあるマレ地区。L’as du FALLAFEL(ラス・ドゥ・ファラフェル)の名物ファラフェルスペシャルは、これまで食べた中で一番おいしいファラフェルだった。付け合わせの野菜まで、それぞれに合った調理法でおいしさが丁寧に引き出されていて、その完成度の高さに驚かされた。

ヴィーガンやグルテンフリーの店を訪れて驚いたのは、それらがすでに一つの食文化として成熟していたこと。「制限」や「代替」としてではなく、「一軒のおいしい店」として人々の日常に溶け込んでいたのです。
素材の選び方や味の完成度からは、ただ「より良いものを届けたい」という作り手の姿勢が伝わってきます。

地元の人で賑わうベーカリー「Copain」はパリのあちこちに店舗を構え、グルテンフリーとは思えないほど完成度の高いパンやスイーツを提供する。店先でサンドイッチを頬張る若者や、Copainの大きな紙袋いっぱいにパンを持ち帰る白髪の男性の姿があった。私たちも滞在中、何度も利用した。

何を食べるのかは違っても、目指しているものは同じ。そんな印象を受けました。

ヴィーガン・グルテンフリーカフェ「WILD THE MOON」にて。チャイラテとチョコレートマッシュルームは香り豊かで濃厚。ピーカンバナナケーキなどのスイーツはしっとりとして、完成度の高さに驚く。
こだわり抜いた植物性素材だけで作られたスイーツが並ぶ。

ビオマルシェから見えるパリの暮らし

街のレストランだけでなく、家庭の食卓へ向かうプロセスにも、同じ美意識が息づいています。

週末のビオマルシェに並ぶチーズやみずみずしい旬の野菜、ガレットやスープといった日常の料理。デパートの食品売り場を彩るデリや専門店のテリーヌ。そしてスーパーに並ぶ質の高い食材や惣菜。

ラスパイユのビオマルシェのチーズ売り場には見たことのないチーズが並ぶ
その場で焼いてもらった蕎麦粉のガレット。気さくなご夫婦が、ジャムやドリンクなど全て手作りの品を並べる。

日常の買い出しをする人々の表情は、どこか真剣で、どこか楽しげです。
上質な食は決して非日常ではなく、健やかな暮らしの一部として、ごく自然に溶け込んでいました。

食のグラデーションとしてのパリ

今回の旅で歩いたのは、ブラッスリー、ビストロからヴィーガン、ビオマルシェ、そして路地裏のフォカッチャスタンドまで続く、パリの食のグラデーションでした。

伝統を受け継ぐ料理も、新しい価値観から生まれた料理も、その根底には「食を大切にする」という共通した姿勢があります。

受け継がれてきたものを大切にしながら、新しいものにも真剣に向き合う。その姿勢こそが、パリの豊かな食文化を支えているのかもしれません。

ギャラリーラファイエットのグルメ館の地下では、精肉売り場にステーキ専門のイートインがあった。ショーケースに並んだ高級肉を選んでその場で焼いてもらい、ワインと一緒に味わえるそう。美食の国フランスならでは。

パリの旅を振り返って思い出すのは、「何を食べるか」という選択肢の多様さそのものよりも、「どのように食と向き合うか」という、日常の中に積み重なった姿勢だったように思います。

フォカッチャサンドの人気店「Cosi」。窯で焼き上げたフォカッチャに具材をサンドして紙でくるっと巻いてくれる。メニューには目移りするほど魅力的な食材の組み合わせが。チョイスした「SHROOMTANG CLAN」で、黒くなるまで炒めたマッシュルームとルッコラのコラボレーションに開眼。

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