本が人を集め、文化を育てる。パリ、図書館と書店を巡って。

パリのブックカルチャーの
熱量を紐解く

パリを訪れる理由は、美術館や歴史的建造物だけではなく、本を巡る楽しみもあります。
パリには、歴史ある図書館から古本屋、独立系書店まで、街のあちこちに本と出会える場所が点在しています。

けれど訪れてみると、それらは単に本を読む場所や、本を買う場所ではなかった。
人が集まり、考え、語り合い、新しい表現が生まれる場所。
パリには、本を中心に文化が育つ空間がありました。

目次

知の蓄積に触れる。リシュリュー図書館

どうしても訪れてみたかった場所の一つに、大規模な改修を経て生まれ変わったリシュリュー図書館がありました。

石造りの重厚な建築の中に足を踏み入れると、圧倒されるのが「オーバルルーム」のスケールです。
楕円形の大空間をぐるりと囲む本棚。映画の世界に入り込んだような、天井まで届く書架。その中で、静かに本を読む人たち。

展示品のように見える本の多くが、今も利用されている現役の蔵書だということに驚かされます。

中央の机には、勉強をする人、パソコンで作業をする人の姿があります。何百年も蓄積されてきた知識が、今も日常の中で使われ続けている光景を目の当たりにしました。

芸術関連の蔵書も充実していて、日本では探して購入するしかないようなアートブックも数多く並んでいました。バレエの舞台制作の本を手に取ると、舞台上での細かな指示や立ち位置まで精緻に記録されていて、その専門性の高さに思わず見入ってしまいました。

ここは単なる図書館でも過去の遺産を眠らせておく書庫でもなく、現代の人へとインスピレーションを供給し続ける、文化を受け継ぐ場所でした。

文学が生き続ける場所。SHAKESPEARE AND COMPANY(シェイクスピア・アンド・カンパニー)

ノートルダム大聖堂をセーヌ川の対岸に望むカルチェ・ラタンの一角にあるのは、世界でもっとも有名な書店のひとつ、シェイクスピア・アンド・カンパニーです。

この書店では、本と向き合う体験を大切にするために、
店内の撮影は不可となっていました。

店内にはいくつもの小さな部屋があり、天井まで本が積み上げられています。狭い通路を進みながら本を眺めていると、まるで秘密基地を探索しているような気分になります。小さな階段を上がると、古書の並ぶ部屋があり、その片隅には誰でも弾けるピアノが置かれていました。

娘と少しだけ鍵盤に触れ、また本棚の間を歩く。静かだけれど、堅苦しくはない。そこには文学を愛する人たちの居場所のような、温かい空気が流れています。

創業当初から作家や詩人たちが集う場所だったというこの書店。本を売るだけでなく、人をつなぎ、文学を育てる場所。その精神は今も変わらず脈々と息づいていました。

文化が生まれる現場。Ofr.(オーエフアール)

トレンドの発信地、マレ地区。そのエネルギッシュな熱量を体現するのが、独立系ブックストアのOfr.(オーエフアール)です。
アートやファッション、インテリア、カルチャーなどを中心に、店内には本が文字通り山のように積まれています。整然と並べられているというよりは、迷路の中を歩きながら、偶然の出会いを探すような感覚です。
世界中から集められた本や雑誌、ZINEが並び、この日も感度の高そうな人たちが集まっていました。

その二日後、再度訪れたときのこと。一回目には見かけなかったZINEが並んでいるのに気づいて見ていると、オーナーが笑いながら言いました。
「それは昨日作ったばかりなんだよ。」
思い立ったらすぐに作る。作ったらすぐに並べる。その圧倒的なスピード感と軽やかさに驚かされます。

奥のギャラリーでは若いクリエイターたちの展示やイベントも開催されている。
ここでは、まさに今この瞬間も、カルチャーが生み出されていました。

本を展示するように売る。Yvon Lambert(イヴォン・ランベール)

北マレにあるYvon Lambertも印象的でした。
現代アートギャラリーを手掛けてきた創業者による書店だけあって、本の並べ方そのものが美しい。

アートブックや作品集、ポスターが美しく配置され、本屋というより小さなギャラリーを歩いているような感覚になります。
本は情報として置かれているのではなく、作品のように丁寧に扱われていました。洗練された空間の中で本を眺めていると、自然とこちらの視点も変わっていく感覚があります。

見たことのない斬新なデザインの本も
洗練された空間

Ivon Lambertもギャラリーが併設されていました。

情報を得るためというより、感性を心地よく刺激するために訪れたくなる、そんな空間でした。

パリは文化を保存するのではなく、育てる街

パリは、古くからの芸術や文化を大切に守り、受け継いできた街です。
けれど今回、本を巡る中で感じたのは、それだけではないということでした。

リシュリュー図書館が誇る数世紀の知の蓄積、そしてシェイクスピア・アンド・カンパニーに集い続ける文学をリスペクトする人々。それら強固なクラシックな土台の上で、Ofr.の「昨日生まれたZINE」が呼吸し、イヴォン・ランベールの「アートとしての本」が若い感性を刺激している。

今回の旅で何より印象的だったのは、どこの書店を訪れても、驚くほど若くて感度の高い人たちで溢れていたことでした。

デジタル化が進み本離れが囁かれるいま、なぜパリの、それも個人経営の書店までこれほどエネルギッシュなのだろう。不思議に思って少し紐解いてみると、若者の書店回帰を後押しするフランスの制度や、ハイブランドが街に新しい本屋を開くような、大きなうねりがあることを知りました。

けれど、実際に街を歩いて感じたのは、そうした制度だけでは説明できない熱量でした。
そもそも「パリで見たい本屋がある」とわたしと娘のアンテナが反応した時点で、知らず知らずのうちにその熱量に引き寄せられていたのかもしれません。

本を読む場所、本を買う場所。そう思って訪れたはずの一つひとつが、人が集まり、語り合い、新しい表現が生まれる現場になっていました。

パリは文化をただ保存するのではなく、育てる街。

このブックカルチャーの熱量に、そのことを教えられた気がします。

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