
使うほどに暮らしに馴染み、月日を重ねるほどに愛着が増していく。
鉄のフライパンは、そんな「育てる愉しみ」のある道具の一つです。
中でもひときわ目を引く佇まいのこのフライパンは、鍛鉄作家・成田理俊さんによるもの。
長年にわたり、毎日のように火にかけながら、暮らしの中心にあり続けた大切な道具の一つです。
一年待って迎えた、鉄製のフライパン|新品の頃の記憶
このフライパンを迎えたのは11年以上前のこと。当時は注文から1年ほど待つ受注生産でした。
手元に届くまでに時間はかかりましたが、その待つ時間も含めて、一つの作品を迎える楽しみだったように思います。

群馬にアトリエを構える成田理俊さんが、細部に至るまですべてを一人で制作された作品。
一枚の鉄板を何度も火に入れ、繰り返し叩きながら少しずつ形を生み出す鍛造(たんぞう)という技法で作られています。
鍛造で作られた鉄は、強さと粘りを備え、丈夫で長く使えることでも知られています。

叩いて固定しする「かしめ」

鋼(はがね)のような質感
工程の一つひとつに手間を惜しまず、持ち手は伝統的な「かしめ」で取り付けられています。
鉄という素材の無骨さがありながら、いわゆる「男前」といわれるような力強さとは違う。
手跡が宿る肌の質感や、青みがかった色合い、線の美しいフォルムはまるで美術品のようです。

水気はコンロの火で乾かすこと、
調理は中火でなど、ポイントが丁寧に書かれていた
フライパンの扱い方は、成田さん直筆の手書きのお手紙で添えられていました。
一つひとつの作品作りに丁寧に向き合ってこられた成田さんの姿勢と、細やかな心遣いが伺われます。
11年以上使った今も変わらない魅力
成田さんのフライパンは、見た目の美しさだけでなく、日々使うことでその良さを実感できる道具です。11年以上使い続けた今も、その印象は変わりません。

愛用しているのは、直径25センチのもの。
鉄のフライパンは重いというイメージがありますが、このフライパンは初めて手にしたとき、その軽やかさに驚きました。小回りが効くので、日々の暮らしの中で自然と手が伸びることが多くなります。

緩やかなカーブを描く浅めのフライパンは、ターナーを差し込みやすく、食材を返す動作もスムーズで、日々の調理の中でも扱いやすさを感じます。

このフライパンならではの魅力の一つ
持ち手の形状もよく考えられています。鉄製の持ち手は調理中熱くなりやすいものがありますが、このフライパンは筒状で裏側が開いた形状になっているためか熱がこもりにくく、私自身は通常の調理で鍋つかみが必要だと感じたことはありません。
使用後は必要に応じて洗剤を使い、スポンジで洗って軽く火にかけて乾かします。11年以上使い続けていますが、この普段のお手入れを続けるだけで、今も変わらず、気持ちよく使い続けられています。
成田さんは、どうしても汚れが落ちにくい場合には金属たわしの使用も問題ないとされています。私自身も、その範囲のお手入れで十分だと感じており、このフライパンには表面を削るような大掛かりな再生作業は行わないようにしています。
暮らしに寄り添い続けてくれた一枚
長い間、このフライパンはほぼ毎日のように火にかけてきました。
朝食の目玉焼きからお弁当の生姜焼き、休日の料理まで、特別な日のためではなく、いつも家族の食卓を支えてきた道具です。


暮らしが少しずつ変わっても、このフライパンは変わらず使い続けてきました。
使い込むほどに手になじみ、鉄の色合いも少しずつ深くなる。小さな傷や焼き跡さえ、その年月を物語る表情になっていきます。

気づけは、このフライパンは「お気に入りの調理道具」というだけではなく、暮らしの風景の一部になっていました。
長く使うことで生まれる価値
長く使う道具には、新しいものにはない魅力があります。
手入れを重ねながら使い続けることで、その道具は暮らしに溶け込んでいく。
成田さんのフライパンは、そのことを改めて教えてくれた大切な一枚です。

